中村公彦監督 Interview
中村公彦(なかむら きみひこ)
1970年、青森県生まれ。東北大学卒業後、会社員生活を経て日本映画学校へ。在学中の1995年、ドキ
ュメンタリー『うなってなんぼ』を監督し、映画制作を始める。俳優としては「サーモン鮭山」名義
でも活動。2014年、『恋のプロトタイプ』で長編映画監督デビュー。以降、『101回目のベッド・イン』『スモーキング・エイリアンズ』『たいせつなひと(仮)』など、コメディ、恋愛、SFをはじめジャンルにと
らわれず監督・脚本を手がけてきた。
現在は、自身が「コメディの決定版」として長く構想してきた『恋の遠隔操作』を制作中。
( Chapter 01 )
コメディの決定版を、ずっと考えていた。
──『恋の遠隔操作』は、どこから始まったのでしょうか。
中村公彦監督(以下、中村監督):自分はさまざまなジャンルの映画を撮りたいと思いつつも、コメディだけはコンスタントに撮り続けていたいと考えています。
ただ、自分にとっての「コメディの決定版」と言える作品を、まだつくっていないという思いがあって、昔からアイデアを少しずつ書き溜めていました。
2014年に長編デビュー作『恋のプロトタイプ』を撮ったあと、その数年前に実際に起きた「遠隔操作事件」からヒントを得て、『恋の遠隔操作』というフレーズを思いついたんです。
それが、書き溜めていたアイデアと結びついて、少しずつ物語になっていきました。
企画を考え始めた頃と現在とで、根本的な部分はあまり変わっていません。最初はぼやけていたところが、つくりながら少しずつクリアになってきた、という感覚ですね。
──いま、この映画をどんな作品にしたいと思っていますか。
中村監督:まずは、観た方に楽しんでもらいたいです。
そのうえで、「あれ?」と意外に感じるようなシーンを入れて、観ている人の固定観念を少し揺さぶりたい。
観終わったあとに、ものごとをそれまでとは違う角度から考えるきっかけになる。そういう映画にな
れば理想ですね。
( Chapter 02 )
ハグが増え、映画が変わっていった。
──脚本を書いていたときと、実際に撮影してからで、映画に変化はありましたか。
中村監督:脚本を書いているときには全然気づかなかったんですが、現場に入ってから、「この作品、ハグするシーンがやたら多いな」と思ったんです(笑)。
減らそうかとも考えました。でも、俳優のみなさんがそれぞれ気持ちを込めて演じてくれていて、いざ編集してみると、どれも切れない。全部、必要なシーンになったと思っています。
それから、本編のラストカットにある俳優さんの表情が本当に好きなんです。何度観ても、グッときてしまう。
もともとは、そのカットのあと間髪入れずにエンドロールへ入るつもりだったんですが、その表情を見て、少し余韻を持たせる形に変えました。
──今回、作品として初めて挑戦していることもありますか。
中村監督:今回は「群像劇」と、「グランドホテル形式のコメディ」に初めて挑戦しています。主人公の目線で物語が進んでいくのに、その主人公については断片的にしか説明していない。
こういう構造の作品は、あまり例がないんじゃないかなと思っています。そこを観た方がどう受け止めるのかは、かなり気になっていますね。
主人公については、どんな人生を送ってきたのか、こちらではある程度決めています。でも本編では断片的にしか描いていないので、その先は観る人に想像してもらえればと思っています。
ほかにも、あえて細かな設定を決めていない人物がいます。「こういうバランスの人、いるよね」と僕は思っているんですが、人によっては「こんな矛盾だらけのヤツいねーよ」と思うかもしれない(笑)。
でも、人にはそれぞれ、他人には理解できない、その人だけの物差しがある。だからこそ、細かく決めすぎない方が、その人物らしさが出ると思ったんです。
( Chapter 03 )
映画は、ひとりで人物をつくらない。
──群像劇となると、それぞれの人物をどう見せるかも重要になりますね。今回、スタッフや俳優から受けた影響について聞かせてください。
中村監督:群像劇なので、それぞれのキャラクターをきちんと描き分けるために、各人物の部屋をどうデザインするかは、とても重要でした。
そこは美術スタッフが、それぞれにうまく個性を与えてくれました。
人物を掘り下げるという意味では、俳優のみなさんはもちろん、衣装、カラコレ、音楽、サウンドデザインなど、いろいろなスタッフのアイデアがかなり加わっています。
自分ひとりで最初に考えた人物よりも、たくさんの人の仕事が加わることで、人物そのものが厚くなっていると思います。
──一方で、制作を続ける中では難しい時間もあったと聞きました。
中村監督:製作上のトラブルによって、仕上げ作業が大幅に遅れてしまいました。キャスト、スタッフのみなさんには、本当に申し訳なく思っています。
その間に、亡くなられた方や、引退された方もいます。それは悔しいです。
だからこそ、内容については胸を張れる作品になっていると思っていますし、一刻も早くみなさんにお見せできるようにしたい。いまは、その思いが一番強いですね。
( Chapter 04 )
04|心を裸にして、意外性を受け入れる。
──この映画をつくることで、ご自身の日常の見え方にも変化はありましたか。
中村監督:この映画の主人公は、他人の日常を少し客観的に見つめるようになって、そこからいろいろ考えたり、行動したりしていきます。
自分自身も、この作品をつくっている間に、他人のことや、自分自身の人生を客観的に見るようになってきた気がします。
以前より、一喜一憂しなくなってきたというか。それがいいことなのか、悪いことなのかは分かりませんけど(笑)。
──映画が完成したあとも、変わらず持ち続けたいものはありますか。
中村監督:映画は、これからもつくり続けていきたいです。そして、つくるからにはオリジナリティのある、自分しかやらないようなことをやりたい。そこは変わらないですね。
そのうえで、一作品ごとに絶えず新しいことへ挑戦していきたいと思っています。
今回の映画を観た方がどんな反応をするのかも、今後、自分が物語やキャラクターを描いていくうえで参考になると思っています。
──まだ完成していない今、『恋の遠隔操作』について一言だけ残すとしたら。
中村監督:この作品に限った話ではないんですが、自分がつくるすべての作品には、たぶん同じ裏テーマがあります。
「人生は意外性の連続だから、知ったかぶりをせず、心を裸にしろ」ということです。
僕は、そういうことをずっと映画で描いているんだと思います。


