映画『耳袋夜噺「樋口家の場合」』平野健介インタビュー|完成して、観てもらえるまでがセットであってほしい。

平野健介 Interview

平野 健介(ひらの けんすけ)

会社員を経て、元同僚の勧めでエキストラとして撮影現場に参加。活動を続けるうちに、自ら演じることへの興味が芽生え、本格的に俳優の道へ進む。現在はフリーで活動し、北野陽太監督『女』では主人公の幼馴染・旭役、『耳袋夜噺』の一編、早田優太監督「樋口家の場合」では樋口良樹役を演じた。

劇場公開される長編映画への主演を目標に掲げる一方、自ら企画・プロデュースし、主演も務める映画の実現に向けて動き始めている。

( Chapter 01 )

芸能人を見たくて、エキストラを始めた。

──平野さんが俳優になろうと思った、最初のきっかけを教えてください。

平野健介(以下、平野):某大手広告代理店グループで会社員をやっていたんですけど、だんだん働くのが嫌になってしまって(笑)、ニートになったんです。

働いていたときの会社の同僚が、趣味でエキストラをやっていて芸能人をよく見る、という話をしていて。「俺も芸能人見たい!」と思って、同じところに登録してみたんです。

そしたら、やっているうちにエキストラじゃなくて自分がメインで演技したいと思うようになって、本格的にやってみようと思いました。

子どもの頃や学生時代は、日常で面白いことを言って笑いを取りたいと思うことはありましたし、映画とかドラマを観るのは好きでした。ただ、自分が俳優になることには一切興味がなくて。まさか自分が今こうなっているとは想像していなかったですね。

エキストラをやっていた元同僚と会えていなかったら、その選択肢自体がなかったので、ものすごい巡り合わせだと思っています。芸能人はめっちゃ見られました!(笑)

──子どもの頃、あるいは今も、「怖い」と感じるものは何ですか。その感覚がホラー映画を演じるときに顔を出すことはありますか。

平野:予想外のところから人が出てきたり、虫が出てきたりしたら怖いですね。カラスは普通に怖いです。あと、姪っ子が二人いるんですけど、会うたびに凶暴になっていて怖いです(笑)。

その感覚がホラー映画を演じるときに顔を出すことは、今のところまだないですね。ホラー映画の役を演じていて、「驚かす側」より「驚く側」の方が難しいなと感じます。

先に演じた『女』の旭役も、そして本作「樋口家の場合」の樋口役も、どちらかというと「驚かす側」で、仕掛ける方なんですよね。

別の作品では驚く側もやったことがあるんですけど、いつ出てくるか脚本に書いてあったり、何回も同じ演技をしたりするので、新鮮なリアクションが難しいです。

( Chapter 02 )

怖いのに、何が怖かったのか分からない。

──「樋口家の場合」の脚本を最初に読んだとき、どんな物語だと感じましたか。また、樋口良樹をどんな人物だと考えて演じましたか。

平野:脚本を最初に読んだときは、何が怖いのか、正直よく分からなかったです。事前に監督にいろいろと聞いたら教えてくれたので、その内容を意識して撮影に入りました。

たぶん作品を観た人も、「めっちゃ怖いけど、結局何が怖かったんだろう、あの後どうなるんだろう」という、後味の悪い気持ち悪さが残っているんじゃないかなと思います。だから印象に残りやすいと思いますね。

『耳袋夜噺』の上映では、順番が最後なのもありがたいですね。

僕が演じた樋口良樹は、日常では陽気なキャラクターだと思います。ただ、劇中ではすでに憑りつかれている状態で、旧友二人に気づかれないように平然を装っている設定なので、特に最初の再会するシーンはテンションを上げたいなと思っていました。

──久しぶりに再会する登場人物たちの関係を、どのように捉えて演じましたか。共演者の皆さんとの芝居で印象に残っていることも聞かせてください。

平野:久しぶりの再会なのに、空き家の片づけを手伝いに来てくれる。台詞の中では、前日にも別の後輩が来ていたぐらいなので、後輩からかなり慕われていた、めちゃくちゃ良い奴だったんだろうなと思います。

そんな仲の良い後輩に怖い思いをさせて、ひどい奴ですね(笑)。

谷村優樹さん、シマタイキさんとは撮影日が初対面だったこともあって、再会するシーンは難しくて。なかなか盛り上がらず、何度も撮り直しましたね。何度もやっているうちに徐々に盛り上がっていって、完成版では良い具合になっていたので良かったです。

波佐本麻里さんは、僕の後ろに憑いているときだったり、手の角度だったり、姿勢をキープするのが大変そうだなと思って見ていました。

他の作品でもよく一緒になるんですけど、「またあなたですか!」って毎回言われますね(笑)。

──早田優太監督とは、どのように「怖さ」をつくっていったのでしょうか。撮影現場で印象に残っていることも教えてください。

平野:早田監督から「怖さ」に関する演出はあまりなかったんです。特に台詞や表情は何も指摘されなくて、思うままに演技したらOKになりました。

一つだけあったのが、僕の立ち姿が不気味なシーンです。「手のひらの向きを変えた方が怖く見えそう」という演出はありましたね。ちなみに、その立ち姿は『ウルトラQ』のケムール人から連想したそうです。

撮影現場は古い貸し家で、不気味な置き物が怖かったです。あと、階段が急で幅も狭くて、昇り降りするのが普通に危なかったです。

撮影が夏前ぐらいの時期で、すぐ近くに幼稚園があって。園児たちがプールに入る時間と重なって、音声を録るのが大変そうでした。ちょっと静まったときに「今のうちに撮ろう!」という感じでしたね。

長回しのシーンや長台詞もある中で、1日で全シーンを撮る予定だったので、とにかく台詞を間違えないように、スケジュールを押さないように意識していました。

( Chapter 03 )

二つのホラーで、怖さのつくり方を知る。

──北野陽太監督『女』では、どんな人物を演じたのでしょうか。最初に脚本を読んだときの印象も聞かせてください。

平野:主人公の幼馴染の「旭(あさひ)」という役です。いち早く「女」の正体に気づく、言動や身に起こる出来事によって物語が動いていくきっかけとなる役割でした。最初に脚本を読んだときは、「めっちゃヤバいの来たー」と思いました。

周りに気を遣う、自己主張が弱い繊細なキャラクターで、「女・ミサ」のことをずっと引きずっていて、会社にも行っていない。それを隠すためにスーツを着て会社帰りを装って、幼馴染との飲み会に参加するんですよね。

そういうタイプの人が凶暴化すると、より異常さが増すので、暴飲暴食のシーンがあったりします。……正直、普段の自分とは全然似ていません。自分なら喜んでニートを楽しみますね(笑)。

──『女』では、信じていた相手への疑念が広がっていきます。この作品を通して、人を「知っている」「信じている」という感覚について、何か感じたことはありますか。

平野:この作品を通して、「知っている」という感覚は、実は自分の中でつくっているものなのかもしれない。「信じている」というのも、自分の中にある相手のイメージを信じている状態なのかもしれない、と感じました。

「この人はこういう人だ」と無意識に決めてしまうことがあると思います。でも、ほんの一つの言葉や態度をきっかけに、そのイメージが崩れることがあります。

『女』では、そういう小さな違和感が積み重なって、今まで信じていた関係性まで揺らいでいくところが面白いと思いました。

芝居でも、最初は「こういう関係性だろう」と思っていた人物が、実際に会話をしてみると、相手の言葉や反応によって少し違って見えるときもあります。

役同士の関係は自分の中だけで決めてしまうものではなく、相手とのやり取りの中で変わっていくものなんだと、改めて感じました。

──『女』と『耳袋夜噺「樋口家の場合」』、二つの作品では「怖さ」のつくり方に違いはありましたか。それぞれの監督の演出や、俳優として新しく発見したことを教えてください。

平野:北野陽太監督とは、どの言い方や表情が一番怖くなるかを、一緒に探りながら打ち合わせたのを覚えています。

特に旭が凶暴化するシーンは、物語全体を通しても重要なシーンの一つだったと思うので、オンラインだったり、対面だったりでリハーサルもして、本番に臨みました。

あとは、僕がいないシーンですけど、小道具もかなり手が込んでいるなと思いましたね。撮影じゃない日に監督が小道具を持って歩いていたら、警察に職務質問を受けて、長いこと尋問されたそうです。これ、舞台挨拶の定番ネタです(笑)。

早田優太監督は、1日しか撮影期間がなかったのもあって、台詞や表情に関しては何も言われなかったです。

どちらかというと「怖さ」以外の部分ですね。例えば、荷物を運ぶシーンは、実際には段ボールの中に何も入っていなくて軽いんですけど、「もう少し重そうに運んでください」と言われたのは覚えています。

怖くない場面がリアルであることで、怖いシーンもより際立つような気がしました。あとは、両作品に共通して「音」が怖いなと思いました。

『女』は、後半でずっと蛇口から出る水の音がノイズになって怖かったり、赤ちゃんの泣き声が混じるところも怖かったり。「樋口家の場合」は、現場では録っていない足音を監督が追加していたり、僕が飲み物を飲む「ゴクッ」という音も追加されていました。

これは確かに、追加した音の方がそのときの心情をより表していて、現場で自分がやりたかったなと思いました。

俳優をやっていると、やっぱり台詞や表情に意識が行きがちですけど、出す音でも感情を表せるんだと、新しく発見しました。

( Chapter 04 )

完成して、観てもらえるまでがセットであってほしい

──ホラーに限らず、平野さんが役を演じるときに大切にしていることは何でしょうか。また、俳優を続ける中で、作品との向き合い方に変化はありましたか。

平野:まずは、物語全体を通して、このキャラクターは何を成し遂げたいのかを考えますね。認められたい、愛されたい、生き残りたい、力を得たい、など。『女』の旭だと「女・ミサに愛されたい」。「樋口家の場合」の樋口だと「生き残りたい」というのが根本にあります。

その次は、各シーンで、このシーンにはどういう役割があるのか、その役はこのシーンが終わるときにはどうなっていたいのかを考えますね。

自分の役はこのシーンでこうなりたい。でも別の役が邪魔してくる。だから怒るなどの感情が生まれる。そういうふうに整理します。

 ただ、『女』と「樋口家の場合」に関しては、最初から頭がおかしくなっている状態で始まって最後までいくので、どうなっていたいか考えられる状態ではないシーンの方が多かったですね。

この2作品に関しては、どうやったら怖くなるかという意識がより強かったと思います。

俳優を続ける中で、作品との向き合い方については、ちょっと回答になっていないかもしれませんが、「一つの役を勝ち取る」のは簡単ではないんです。

今はフリーで活動しているので、オーディションの情報が常に入ってくるわけではなく、大きな作品に出演するチャンスも限られています。だからこそ、一つひとつの役を大切にして、準備をして、撮影に臨んでいます。

一方で、俳優としていろいろな作品に参加していると、撮影が終わっても作品が完成しなかったり、完成しても公開されず、観てもらう機会がないこともあります。

世に出ていない作品でも面白い作品があって、観てもらいたい作品もあるんですよー。作品が完成して、実際に観てもらえるまでがセットであってほしいなと思っています。

Cinemagoさんに配給していただいた『女』や『耳袋夜噺「樋口家の場合」』のように劇場で公開される作品や、映画祭、上映イベント、WEB媒体などを通して観てもらえる作品に携われることは、本当にありがたいことです。

自分が関わった作品を、ちゃんと完成させて、ちゃんと観てもらう。これからも、そこまで大切にできる俳優でありたいと思っています。

──『女』と『耳袋夜噺「樋口家の場合」』を経て、これからどんな人物を演じてみたいですか。俳優として、今後実現させたいことも聞かせてください。

平野:今、目標に掲げているのは「劇場公開される長編映画に主演で出ること」です。『女』と『耳袋夜噺「樋口家の場合」』は、どちらも「ホラー×ヤバい役」だったので、そんな役で主人公だったら、また違った面白さが生まれるかなと思っています。もちろん、ホラー以外のジャンルもやりたいです。

あとは、自分でも作品を企画、プロデュースして主演で出る「自作自演自己満足映画」をつくろうと思って、動き出しております。

自分で創作もしていくことで、視野が広がったり、人脈も広がったりするのかなと思っています。

Cinemagoさん! よろしくお願いします!(笑)

平野健介さん出演の映画『耳袋夜噺「手毬の少女」』(早田優太監督)は、名古屋 シネマスコーレにて上映予定!