映画をつくっていると、予定通りにいかないことがある。
いや、
予定通りにいかないことの方が、
多いのかもしれない。
松田彰監督『朧の華火』では、キャスティングについて、
これまで二度の変更があった。
そのたびに、どうするか、考えた。
プロデューサーとして、アイデアを出し、
結果として、映画は前へ進んだ。
あの采配が、本当に良かったのか。
それは、映画の神様だけが知っている。
そして今回、三度目のキャスト変更が必要になった。
理由は、
ここには書かない。
映画を一本つくるということには、
表には出ない事情が、
いくつもある。
だったら、
そんな困難すら、
楽しもうじゃないか。
今回は、まずは松田監督に、
キャスティングの交渉権を渡すことにした。
自分で候補を考え、自分で声をかけ、トライしてもらう。
なぜ、そうしたのか。明確な理由があったわけではない。
ボク自身、
「この人しかいない」
という、シックリくる決定的な候補を、
見つけられていなかった。
だから、少し、考えることにした。
すぐに答えを出さず、遠回りしてみる。
考える。
また考える。
こういう時、奈良・中宮寺(尼寺)にある
飛鳥時代の国宝「菩薩半跏像」を思い出す。
片足を組み、
頬に指を添え、
静かに思惟する。
もちろん、
ボクがあんなに美しい姿で
考えていたわけではない(笑)。
それでも、半跏思惟。
そんな気分で、『朧の華火』の登場人物たちを、
頭の中で一人ずつ眺めていた。
すると、あるアイデアが浮かんだ。
――これなら、いける。
三度目のキャスト変更を、単なる「変更」で
終わらせなくていい。
むしろ、この映画を、
もう一段エンターテインメントへ振ることができる。
映画では、決して珍しい手法ではない。
ある意味では、定番ともいえる。
でも、『朧の華火』で、
それをやったらどうなるだろう。
考えれば考えるほど、やってみたくなった。
この作品は、ボクにとっても、
松田監督にとっても、勝負作である。
そのアイデアが浮かんだ瞬間、
三度目のキャスト変更についても、
「これなら、むしろ良くなる」
という確証のようなものが、初めて生まれた。
まだ、その秘策を書くことはできない。
キャスティングも、これからである。
うまくいくかどうかも、映画の神様しか知らない。
ただ、ひとつだけ思っている。
三度目の交代劇によって、
映画の中で生かされた登場人物たちを、
今度は、こちらが救ってやりたい。
キャストの変更で、物語を後退させるのではなく、
物語そのものを、右斜め上に進ませる。
そのための、映画的秘策。
さて、半跏思惟は、そろそろ終わり。
ここからは、野球でいえば、
スリーアウト。
回が変わった。
今度は、
攻めとして、動く番である。
Written by
出町 光識
ライター編集者/プロデューサー・ディストリビューター
1968年 東京文京区に生まれ。日本映画学校 第一期生として卒業。
一度は撮影スタジオで助監督として働くも挫折。その後、震災にあったことを機に、ふたたび映画の道へ戻ることを決意。40代半ばにして、日本映画大学に編入学を果たし、映画理論を学びほぐす。卒業後には映画Web媒体でライター兼、編集長を経た後、映画配給を始める。現在は株式会社ゆかし代表となり、『朧の華火』『恋の遠隔操作』では製作を担当。
趣味は休日のプロレス観戦、仙女の推し活をしている。


