映画『還り花』三室力也監督インタビュー|また、映画にしたいものに出会う。

三室力也監督 Interview

三室力也(みむろりきや)

映像プロダクションを経て、2021年に独立。ブランドムービーやミュージックビデオの企画・演出、映画制作を中心に活動。

長編初監督作(共同監督)『Sampaguita/サンパギータ』が第18回ロサンゼルス日本映画祭(JFFLA)に入選し、Best Cross Culture Awardを受賞。ショートフィルム『The Last Day』はCanada ShortsにてBest Thriller / Horror / Suspenseを受賞し、TikTok TOHO Film Festivalでファイナリストに選出された。

日本・フィリピン共同制作長編『還り花/Return to Bloom』では、監督・脚本・編集を担当。

( Chapter 01 )

映画にしたいものに、また出会う。

──三室力也監督は、もともと映画の予告編を作る仕事をされていたそうですね。そこから映画監督
を目指すようになったのは、どんなきっかけだったのでしょうか。

三室力也監督(以下、三室監督):映画の予告編を制作する会社で、エディターとして働いていた時期があります。振り返ると、その頃がいちばん多く映画を観ていた時期だったと思います。

その頃、テアトル新宿で偶然観たのが、山戸結希監督の『おとぎ話みたい』(2014年)でした。当時まだ20代前半だった自分と同年代の監督が、自主制作という形で、これだけ作家性の強い映画を作り、それが映画館で上映されている。作品そのものから、とても強いエネルギーを感じました。

それまで自分の中では、映画監督になるまでの道筋がほとんど見えていなかったんです。でも、その作品との出会いによって、「映画監督にはこういう道もあるんだ」と知り、大きな刺激になりました。

ただ、当時から映画だけを作りたいと思っていたわけではありません。広告やMVなども含めて、いろいろな映像を作りたいという気持ちがあり、次第に編集よりも演出そのものに興味が向くようになりました。

その後、映像制作会社に移り、ディレクターとして広告などの制作に携わり、そこから独立しました。飯塚プロデューサーとのご縁から長編映画の企画が動き始め、実際の制作につながっていきました。

映画を作る中では、「もう無理かもしれない」と感じる小さな瞬間は常にあります。脚本、俳優への演出、画や音の選択まで、自分が何を見てきて、何を考えてきたのかが問われます。そして完成すれば、今度は観客からの評価にも向き合うことになります。

それでも、また映画にしたいものに出会う。そしたら、それを撮る。その繰り返しなのだと思います。

──三室監督の映画の原点には、どんな作品がありますか。

三室監督:5、6歳の頃は、ジム・キャリーの『マスク』(チャック・ラッセル監督/1994年)や『ホーム・アローン』(クリス・コロンバス監督/1990年)を自宅で何度も観ていました。どちらもとにかく楽しくて、何度観ても飽きなかった記憶があります。

今の自分の映画の原点のひとつは、北野武監督の『HANA-BI』(1997年)です。特に惹かれるのは、西と妻の間にある、まっすぐで深い愛のかたちです。

二人は多くを語らないし、お互いの気持ちを言葉で確認するようなこともほとんどない。それなのに、一緒に過ごす時間や何気ない仕草を見ているだけで、二人の間にあるものが強く伝わってくる。語らないことで、むしろ語っているような感覚があります。

ヴィンセント・ギャロ監督の『バッファロー’66』(1998年)にも大きな影響を受けています。映画の中で積み重なってきた居心地の悪さや孤独が、最後のわずかな変化によって少しだけほどけていく。その瞬間に、それまで見てきた人物への印象や作品への愛着が一気に変わる。自分も、そういう小さな変化が残る映画に惹かれます。

( Chapter 02 )

“ 神の小さな楽園 ”で生まれた物語。

──映画『還り花』は、どのようなところから始まったのでしょうか。

三室監督:この映画は、フィリピン観光省の後援のもと、ボホール島を舞台に映画を作るという企画が立ち上がったことからスタートしました。まず実際に島を訪れ、自分がこの場所で何を撮りたいの
かを探していきました。

最初にボホール島を訪れたとき、特に印象的だったのは、観光地としての華やかさと、手つかずの自然との距離の近さでした。観光地のすぐそばに、まだ大きく手の入っていない自然が残っている。その距離感がとても印象に残りました。

ボホール島は「神の小さな楽園」とも呼ばれています。そうした環境に触れる中で、自然を単なる背景としてではなく、物語の中で人と同じくらい重要な存在として扱いたいと思うようになりました。そこから、人と自然、そして記憶の関係を軸にして、『還り花』の物語を考えていきました。

──主人公の一樹には、三室監督自身も重なっているのでしょうか。

三室監督:一樹は、周囲とはなるべく穏やかに接しながらも、自分の中で大切にしているものについては、周囲の空気に合わせて簡単に手放さない人物です。

物語が進むにつれて、そういう部分が少しずつ強く出てきます。振り返ると、そのあたりは自分に近いところがあると思います。自分自身、街や自然を見ながら、昔の記憶を思い出したり、そこにどんな人がいたのか、どんな場所だったのかを想像することがあります。

富山で生まれ育ったので、子どもの頃から街の背後には広大な立山連峰がありました。当時は特別なものだと思っていませんでしたが、同じ山でも天気や季節によって毎日のように見え方が違う。そういう景色の中で育ったことも、今の自分の風景の捉え方や、映画づくりにつながっているのかもしれません。

( Chapter 03 )

海の向こうで、映画を撮るということ。

──ボホール島での撮影で、特に忘れられない出来事はありますか。

三室監督:主人公が最後に訪れる場所は、ボホール島から船で渡る小さな島で撮影しました。その日は朝からトラブルがあり、予定より遅れて撮影が始まりました。

撮影の終盤になって、このまま遅くなるとボホール島側の潮が引き、帰りの船が岸まで近づけなくなることが分かったんです。帰りは海も荒れていました。

僕たちはSSD(映像データ)や撮影機材が海水に濡れないように守りながら、日も沈んだ暗い海を進みました。激しい揺れや水しぶきもあって、かなり緊張する状況でした。

その一方で、船頭は裸足で船の先端に立ち、巧みなバランスで、まるで荒波を楽しんでいるようでした。その姿をて、海との付き合い方や感覚そのものが、自分たちとは違うのだと見せつけられた感じがしました。

結局、船は岸まで入ることができず、スタッフ全員で撮影機材を抱えて、100メートルほど岩場を歩いて戻りました。海外撮影では、予定が少し変わるだけでも、単なるスケジュールの問題では済まないことがあります。

この日は、監督として作品を撮ることだけでなく、一つひとつの判断がキャストやスタッフの安全にも関わる。その責任の重さを、あらためて感じた一日でした。

──そうした限られた条件の中でも映画を作り続ける理由は何でしょうか。

三室監督:映画を作る理由そのものは、予算の大きさとはあまり関係ありません。映画にしたいものがあれば、その時にある条件の中で、どう形にするかを考えます。

インディーズ映画では、予算の制約から、監督を含めスタッフそれぞれが複数の役割を兼ねることも多いと思います。特に海外撮影では、その負担が大きくなり、現場全体に影響することもあります。

作品を重ねながら少しずつ規模を広げて、スタッフがそれぞれの役割に、より集中できる環境を作っていけたらと思っています。

( Chapter 04 )

人は自然の中に生き、記憶を残していく。

──完成した映画『還り花』を観たとき、どんなことを感じましたか。

三室監督:自分で編集をしているので、少しずつ一本の映画になっていく過程を楽しみながら完成まで進めていきました。完成してまず感じたのは、最初に思い描いていたものを、最後まで保ったまま一本の映画にできたことです。

人が自然の中で生きていて、その自然がまた人の記憶の中に残っていく。そういう関係を、この映画では最後まで軸にしていました。序盤に、カメラがゆっくりとパンしていくカットがあります。物語の起点となる瞬間なので、ぜひ注目して観てほしいです。

──最後に、これから『還り花』を観る人へ伝えたいことはありますか。

三室監督:フィリピンやボホール島に興味がある方はもちろん、普段あまり触れることのない場所や文化に惹かれる方にも観てもらえたら嬉しいです。そして出演者を応援してくださっている方にも、ぜひ観ていただきたいです。普段とはまた違う表情や姿も、この映画の中に残っています。

ボホール島という場所、その自然、そこに生きる人たち。それらと物語がどんなふうにつながり、どんな記憶として残っていくのか。映画の中で感じてもらえたら嬉しいです。