⽯川皓⼀監督 Interview
石川皓一(いしかわ こういち)
1993年、埼玉県生まれ。幼い頃から漫画に親しみ、空想の世界に惹かれて育つ。シナリオを学ぶため、日本大学芸術学部映画学科へ進学。在学中、プロデューサーの宮沢との出会いを通してさまざまな映画の面白さに触れ、映像制作団体「平成ナヌーク」を結成。
卒業後は映像制作会社に勤務するが、家族の介護のため退職。その後、脚本執筆を続けながら、約3年をかけて2025年に『健康ちえのわトランポリン教室』を完成させる。
なかなか結果につながらない時期もあったが、十三下町映画祭への入選、準グランプリ受賞を機に作品が注目され、2026年の劇場公開へとつながった。
( Chapter 01 )
漫画少年、映画へ。
──漫画少年だった石川皓一監督が、映画を自分で作ろうと思ったのは、どんなきっかけだったのでしょうか。
石川皓一監督(以下、石川監督):映画を自分で作りたいと思うようになったのは、日本大学芸術学部に入ってからです。もともとは漫画家に憧れていたり、シナリオの勉強をしたいと思って大学に入りました。
そこで出会ったのが、プロデューサーの宮沢大です。いろいろな映画の世界を紹介してもらって、それまで観る側だった映画を、自分でも作ってみたいと強く思うようになりました。
ただ、最初からうまくいったわけではありません。見よう見まねで作品を作って映画祭に送っても、なかなか良い返事は来ない。「自分が面白いと思っているものは、誰にも響かないのかもしれない」と、辞めようと思ったことも何度もありました。
それでも続けてこられたのは、身近で作品を面白がってくれた人たちの言葉があったからです。特に宮沢プロデューサーの感性を信じながら、自分自身を奮い立たせてきました。
子どもの頃は『ロード・オブ・ザ・リング』(ピーター・ジャクソン監督/2001 年)のようなファンタジーの世界が好きでした。高校生になると、三木聡監督の『図鑑に載ってない虫』(2007 年)や、三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』(1997 年)のような、ドタバタした笑いにも惹かれていきました。
そして大学で宮沢くんに見せてもらった塚本晋也監督の『鉄男』(1989 年)。あれには「 脳を焼かれた」と言っていいくらいの衝撃を受けました(笑)。
映画以外で自分を作ってきたものは、やはり漫画です。『火の鳥』『日出処の天子』『ブラック・ジャック』『ジョジョの奇妙な冒険』『デビルマン』など、子どもの頃から漫画の世界に心を奪われていました。家から走って 30 秒のところに BOOKOFF があったので、土日になると朝 10 時の開店前から並んで、一日中漫画を読んでいたくらいです。
今も映画を観たり、漫画を読んだり、YouTube を観たりと忙しくしていますが、街に出て人を見ることも意識しています。街中や公園のベンチでぼんやり人を眺めていると、作品の参考になることも多いんです。
( Chapter 02 )
この映画を作らなければ、辞めていた。
──『健康ちえのわトランポリン教室』には、監督自身のどんな感情や経験が入り込んでいるのでしょうか。
石川監督:脚本を書き始めたのは 2020 年、コロナ禍の真っ只中でした。 当時、僕は無職でした。 行き場のなさや居心地の悪さ、そういうものを作品に落とし込みたかったのだと思います。そこに、これまで家族を看取ってきた自分自身の経験や、普段から世の中に対して感じていたことが、一気に溢れ出してきました。
それがたまたま 2025 年という時代に、受け入れてもらえたのだと思っています。もし、この作品を作っていなかったら、映画監督は辞めていたと思います。それくらい、自分にとって大きな一本でした。
──本作に登場するキャラクターについて、お聞かせください。
石川監督:登場人物には、それぞれ自分自身の一部が混じっています。中でも主人公・結依の「自分が思っていることを外に出せない」「自分が我慢すればいい」という思考回路は、自分の中にもかなり強くあります。
だから、この映画では、結依だけではなく、自分自身のそういう主体性のなさを、作品の中で思い切り叩いているところがあります(笑)。
『健康ちえのわトランポリン教室』は、不思議なタイトルで、不思議な世界を持った映画です。ただ、その世界に生きている人たちが抱えている悩みや苦しみは、決して特別なものではありません。
外見は奇妙でも、その中にいる人間は、私たちのすぐ隣にいるかもしれない。そういう映画です。
( Chapter 03 )
「これはヤバい」と思った瞬間。
──撮影現場で「映画が生まれた」と実感した瞬間はありましたか。
石川監督:特に忘れられないのは、初めて教室を撮影したシーンと、対話のシーンです。役者が実際に「ちえのわトランポリン」をするところは、カメラで覗くまで、どう映るのか自分でも分かっていませんでした。
だから初めてモニターで確認したときは、「これはヤバいな」と素直に感動しました。自分たちが頭の中で想像していたものが、現実の映像として立ち上がった瞬間でした。
もうひとつ強く残っているのが、ワンカットの長回しで撮った対話のシーンです。現場にはかなりの緊張感がありましたが、先生役の香賀隆乃さん、みっちゃん役の佐々木敦子さん、そしてハカセ役の玉城琉太さんが素晴らしい芝居をしてくれて、一発 OK になりました。
玉城さんが涙を流す芝居も含めて、カットをかけた後も現場には独特の空気が残っていました。そこにいた全員が少しフワフワしているような感覚になっていたと思います。
映画は、こういう瞬間があるから面白いのだと思います。インディーズで映画を作る理由も、結局はとても単純です。
自分たちが「面白い」と思っているものを、世の中の人に観てもらいたい。楽しいと思うことを考えて、それをお客さんに面白いと思ってもらえるよう準備していく。その時間自体が、とても魅力的なんです。
もちろん、自分たちだけで盛り上がっていてはいけないとも思っています。自分たちが面白いと思うものを、どうすればもっと多くの人に楽しんでもらえるのか。そこは、これからも考え続けたいです。
( Chapter 04 )
日常を、少し侵食する映画。
──完成した『健康ちえのわトランポリン教室』を、観客にはどんなふうに受け取ってほしいですか。
石川監督:完成した映画を最初に観たときは、自分たちが夢想していた世界が、本当にスクリーンの中に生まれていることに感動しました。
変な作品ですし、不親切で、めちゃくちゃで、嫌らしい。でも、それこそが自分の望んでいた世界でもありました。そのゴチャゴチャした部分も含めて、観客の皆さんに愛してもらえたらという、かなり自分勝手な願いを作品に託しています。
特に観てほしいのは、教室 2 階のシーンです。あそこは、本当にやりたい放題やっています(笑)。
この作品には、不思議なタイトルがあり、不思議な世界があります。ただ、そこに生きている人たちは、皆さんと変わらない悩みや苦しみを抱えています。もしかすると、あなたの隣の街で、隣の家で、隣の部屋で起きているかもしれない物語。そんなふうに観てもらえたら嬉しいです。
そして映画を観終わったあと、劇場を出て、いつもの生活に戻ったとき。ほんの少しだけでも、あなたの日常の中に『健康ちえのわトランポリン教室』の世界が残っている。
あるいは、知らないうちに少しずつ侵食している。そんな映画になってくれたらと思っています。


