短編映画『いきうつし』『ぬけがら』『Shall we love you?』『甘露』『幸福な装置』田中晴菜監督インタビュー|どうしても、この世にあってほしい映画を。

田中晴菜監督 Interview

田中晴菜(たなかはるな)

大学卒業後会社員として勤務。2016年4月ニューシネマワークショップクリエイターコース修了、自主映画制作を開始。 『いきうつし』『ぬけがら』が国内外の 映画祭で高い評価を受け、2021年に劇場公開。

『Shall We Love You?』がショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2023ジャパン部門にノミネート、2023年6月17日(土)にアジアインターナショナル&ジャパンプログラム5にて上映。

2024年5月19日には池袋シネマ・ロサにて『幸福な装置 – 田中晴菜監督特集 -』を上映。

( Chapter 01 )

映画は、遠い場所にあった。

──子どもの頃、田中監督にとって映画は「遠い存在」だったそうですね。「自分でも撮れるかもしれない」と思うまでには、どんな道のりがあったのでしょうか。

田中晴菜監督(以下、田中監督):映画館もない栃木県の田舎で育った私にとって、映画はとても遠い存在でした。とんでもない才能や魅力、統率力を持った一握りの人だけが作れるものだと思っていました。

その感覚が変わったのは、映画学校の説明会で初めて自主映画を観たときでした。そこで初めて、「私でも撮れるかもしれない」と思いました。

自主映画を始めてからは、撮ること以上に、その映画を人目に触れる場所まで持っていくことの難しさを感じています。映画はたくさんの人の時間、労力、技術、才能を借りて成立するものです。

十分なお金を返せないこともある。だからこそ、撮った以上は、作品を人の目に届くところまで連れていかなければならないと思っています。
より良い場所に届けようとすればするほど、必要な人や時間や力も増えていく。なので、いつも「今」がいちばん難しいです。でも、早くそこを突破して、もっと良い映画を撮りたいと思っています。


──そんな田中監督が、子どもの頃に出会った映画の原体験は、どのようなものだったのでしょう

田中監督:初めて観た映画は『となりのトトロ』(宮崎駿監督/1988年)でした。両親の会社の社員旅行でディズニーランドへ行ったときのことです。

乗り物酔いでぐったりしていた私は、到着後もバスに残っていて、運転手さんが観光バスのテレビで流してくれました。

冒頭の農道が実写のように見え、引っ越し荷物の中から顔を出すサツキを見て初めてアニメーションだと気づきました。その驚きは今も覚えています。

今振り返ると、昔から「精巧なにせもの」に惹かれてきました。ジオラマ、ミニチュア、剥製、人形、自在置物、そっくりさん。何かに似せようとする行為そのものが好きです。似せているうちに理想化されたり、過剰になったり、元のものから独り歩きしていくところにも惹かれます。

映画を作ることに惹かれるのも、芝居、衣装、メイク、セット、編集など、多くの人がひとつの架空の世界に「寄せていく」過程に魅力を感じているのかもしれません。

( Chapter 02 )

五つの映画、五つの理由。

──今回の5作品は、それぞれどんな必然から生まれたのでしょうか。登場人物には、田中監督自身も重なっていますか。

田中監督:短編映画『いきうつし』は、「これが何にもならなかったら映画は諦めよう」と思って撮った作品です。結果的に劇場上映への道筋までつけてくれた一本なので、もし作っていなかったら、今も映画を続けていなかったと思います。

『ぬけがら』は、『いきうつし』を審査してくださったある監督から「これは映画ではない」と言われたことが出発点でした。では、映画とは何なのか。それを考えながら撮った作品です。私たちをいちばん遠くまで連れていってくれた作品でもあり、長編版をまだ撮れていないので、今も手の中に残り続けています。

『Shall we love you?』は、ワンカット・フィックスという制約のある映画祭がなければ生まれなかった作品です。

『甘露』も同じくワンカット・フィックスで、実家で営んでいた駄菓子屋を取り壊すことになったのをきっかけに撮った映画です。劇中の兄弟の記憶には、私たち姉妹の記憶が重なっています。

『幸福な装置』は、コロナ禍をきっかけに「極力触れ合わずに」撮ろうとした作品で、今のチームとのつながりを生んでくれました。登場人物との距離も作品ごとに違います。『いきうつし』の亀八と椿は、一つの問いに真逆の答えを出す人物ですが、どちらにも自分の一部があります。

『ぬけがら』のひばりと太一は、逆に自分にはないものを持っている人たちです。だからこそ、彼らが何に心を動かして生きるのかを考えながら脚本を書き、撮影時に彼らに初めて会えた気がしました。

『Shall we love you?』には、映画を作り始めるのが遅かった私が「こういう学校生活を送りたかった」という気持ちが反映されていますし、『甘露』は実家を舞台にしている、兄弟の記憶にはも私と妹の実際の記憶が多く含まれていて、私自身にとても近い映画です。

『幸福な装置』では、登場人物を全員「機械」にしました。彼らが置かれているような永遠に続く孤独を、私たちがそのまま味わうことはありません。でも、彼らが感じている「永遠」は、私たちが個人というより、生き物として切実に求めているものと同じだと思っています。

( Chapter 03 )

制約が、映画をつくる。

──田中監督にとって、制約の多いインディーズ映画だからこそ、撮影現場で生まれるものはありますか。

田中監督:『いきうつし』を撮影した時、映画は、観るより撮るほうが何万倍も楽しいと思いました。自主映画では自分の財布が許す限り、やりたいことを試せます。

今回の5作品も、同じロケーション、一人複数役、ワンカット、触れずに心に触れる、といったさまざまな制約の中で作られています。でも、その制約が結果的に、それぞれの作品の特徴になったと思っています。現場では、脚本を芝居が超えていく瞬間があります。

『いきうつし』で笠原千尋さんが演じた椿の高笑いと視線の運びは、その喜びを教えてくれました。

『ぬけがら』では、物語に必要な雨がなかなか降らず、撮影する通り一帯にバケツで水を撒き、カメラを回す直前に庇から水を流して、「雨が降っているように」撮りました。最終日の午後になって、ようやく本当に雨が降りました。奇跡のようでした。水たまりですれ違う黄色い傘の演出も、その日に思いついたものです。

『Shall we love you?』は、在学当時女子校だった母校で撮影し、制服も当時のものを使いました。

『甘露』では、祖父がよく吸っていた銘柄の煙草を登場させています。

『幸福な装置』では、星能豊さん演じる小石の繊細な芝居が素晴らしく、編集しながら「ずっと見ていられる」と感じ、結果として、寄りのカットを多く使いました。

( Chapter 04 )

この世にあってほしい映画。

──これから5作品を鑑賞する人に、どんなふうに田中作品と出会ってほしいですか。

田中監督:この5作品は編集も自分でしているので、「完成版を初めて観た」という感覚があまりありません。編集の間に、親の顔より何度も何度も観ていますから(笑)。

今回は、5作品それぞれのトーンを意識的に変えています。時代も設定も異なり、一作ずつ独立して完結していますが、対比や連続性を持たせながら作りました。通して観ると、一本だけでは見えなかったつながりを感じてもらえるかもしれません。

ただ、作品の受け取り方をこちらから指定したいとは思っていません。映画は、受け取った人が勝手に自分の物語にしてくれるのがいいところだと思っています。

誰もが必要としている映画ではないかもしれません。それでも、私が”どうしてもこの世にあってほしい”と願って作った映画です。

予告編を観て、何かひとつでも気になる作品があったなら、それはもしかすると、今のあなたが欲している映画なのかもしれません。どれも7分から30分ほどの短い作品です。

まずは一作、気になった世界を覗いてみてください。そこから5本すべてを辿ってもらえたら、とても嬉しいです。

田中晴菜監督の短編映画『いきうつし』『ぬけがら』『Shall we love you?』『甘露』『幸福な装置』は、U-NEXTほかでサブスク配信中!