PRODUCTION NOTE|劇場に、一席。

2021年から準備を始め、制作を続けてきた映画のポストプロダクションが、本日、終了した。

撮影は2022年の冬。

ここまで来るのに、ずいぶん時間がかかった。

制作費は、途中で底を尽きた。

ボクは警備員のアルバイトに走り、当時生活のリズムも大きく変わることになった。

銀行から借り入れた500万円を一年で返済し、あわせて総額約900万円を映画に投じた。

それでも資金は十分ではなく、監督にも資金調達をお願いした。

そうして、制作費約1000万円の映画が、ようやく完成することになった。

映画ヲ、ツクル。

言葉にすれば簡単だが、実際にはなかなか簡単ではない。

キャスティング、美術、撮影、編集、音響、グレーディング……。

その一つひとつに時間がかかり、お金がかかる。

何より、映画を完成させようとする監督の思いがあった。

それでも、途中で何度も立ち止まった。

監督と何度も酒を飲みながら食事をして、少しずつ前へ進んだ。

そして今日、最後の色合いのグレーディングにOKを出し、ようやくポストプロダクションを終えた。

今年、父親が亡くなった。晩年はベッドで寝たきり。

まだ父親が生きていた頃、ボクは映画の道に再び戻り、これから映画制作を仕事にしていくことを伝えた。

青森生まれで、口数の少ない父親だった。

「がんばれ」

そう言ってくれた。

そのとき制作していたのが、この映画だった。

ボクは、「頑張るのは、お父さんのほう」と、照れ隠しに減らず口をたたいた。

残念ながら、父親は完成した作品を見ることができない。

ただ、この映画の物語には、父親から受け継いでしまった、あるモノが、映画的な要素として描かれている。

監督の意図とは異なるのだろうか。

それでもボクは、そこに“映画の正体”を感じ、脚本段階から気に入っていた。

子どもの頃、父親に連れられて映画館へ通った。

寂れた暗い劇場。そこにある大きなスクリーン。

幕間に場内を歩く、あんぱん、モナカアイス売り。

そして何より1番は、眩しいばかりの光とともに現れる映画会社のロゴ。

これから何が始まるのだろう。

あの、期待に満ちた時間。

映画を好きになった人なら、きっと覚えがあるだろう。

最初のエモーションだ。

父親が連れていってくれた映画館の記憶は、ずいぶん昔のことなのに、不思議といまも薄れない。

それが、いまの仕事につながっている。

そう考えると、映画というのは、おかしものだ。

つくっているつもりで、実は自分がこれまで受け取ってきたものを、もう一度見つめ直している。

そんな、光と影の時間なのかもしれない。

もちろん、映画は完成しただけでは終わらない。

ここから劇場公開に向けた仕事が始まる。

作品を届けるために、まだやらなければならないことがある。

長い時間をかけてつくった映画が、映画館の暗がりの中で、ようやく観客と出会う。

そして、父親へ。

劇場公開したら、暗がりの座席で見てくれ。

映画館の席は、予約しておく。

お父さんに光を!

Written by

出町 光識

映画制作/映画配給
1968年 東京文京区に生まれ。日本映画学校 第一期生として卒業。一度は撮影スタジオで助監督として働くも挫折。その後、311震災にあったことを機に、ふたたび映画の道へ戻ることを決意。40代半ばにして、日本映画大学に編入学を果たし、映画理論を学びほぐす。卒業後には映画Web媒体でライター兼、編集長を経た後、映画配給を始める。現在は株式会社ゆかし代表となり、『朧の華火』『恋の遠隔操作』では製作を担当。趣味は休日のプロレス観戦、仙女の推し活をしている。