俳優 戸張瞬 Interview
戸張瞬(とばりしゅん)
2000年、茨城県出身。高校卒業後に工場勤務を経て上京し、俳優活動を開始。2025年に初主演を務めた長編映画『竜宮の誘い』(山田純監督)は、第19回田辺・弁慶映画祭にて弁慶グランプリを受賞。また、同年出演作の短編映画『円縁』(近棟教聖監督)は第27回長岡インディーズムービーコンペティションにて審査員特別賞、第3回熊谷駅前短編映画祭にて優秀賞を受賞。
( Chapter 01 )
自分も、そっち側に行きたい。
──高校卒業後に工場で働き、その後上京して俳優の道へ進まれました。「俳優になりたい」と思ったきっかけと、上京を決断するまでのことを聞かせてください。
戸張瞬(以下、戸張):工場で1年ほど働いていた頃、世の中がコロナ禍になりました。何度も食堂でコロナのニュースを観た記憶があります。週末に友達と遊んでいた時間も全くなくなって、職場と家を往復するだけの日々でした。
そんな中、テレビをつけるとエンタメを届けてくれる方がいて、笑わせてくれたり、考えさせられたりして、退屈が少しずつ減っていったんです。そのとき、ふと「自分もそっち側に行きたい」と思いました。自分が誰かを楽しませればいい。そう思って、俳優の道を選びました。
幼い頃から家族がドラマをよく観ていたので、俳優という仕事にはずっと憧れがありました。役と普段とのギャップが格好いいと思える俳優さんに惹かれます。
上京することは誰にも伝えず、一人で決断しました。コロナ禍での上京だったので、家族には大変心配をかけたと思います。それでも自分の熱意を伝えて、最後には背中を押してくれたことを、今でも感謝しています。
──戸張さんにとって、「映画」の原体験は何でしょうか。
戸張:正直、ちゃんと映画を観始めたのは20歳を過ぎた頃でした。幼い頃はドラマばかり観ていたので、映画とドラマの区別すらついていませんでした。
何かの記事で、ある監督が映画の短いワンシーンを撮るために、予定を大幅に押してまで撮影したという話を読みました。スタッフも演者も全員が集中して、撮りたい画が撮れるまで撮る。
当時の僕には常軌を逸しているようにも感じましたが、同時に「面白そうだな」と思ったんです。今回の山田監督も一切妥協を許さない方だったので、僕も精一杯食らいつきました。その姿勢が山田組全体の士気を高めていたと思います。本当に楽しかったです。
( Chapter 02 )
映画は、監督の人間性が表れる。
──舞台やテレビドラマではなく、映画のカメラの前で演じることに惹かれるのはなぜでしょう。
戸張:映画には、監督の人間性が表れると思っています。作りたい画や描きたい構造など、細かな仕組みが合わさって一本の映画になる。それだけでワクワクします。
また、尺の天井がないことから、とことん追求できる面白さもあります。長編だから良いということではなく、一つの呼吸でも、尺によって受け取り方が変わる。そこも映画の魅力だと感じています。
──いま、俳優として前へ進むために、日常の中で意識していることはありますか。
戸張:数年前は、とにかく現場に出ていた時期がありました。どんな役でも、通行人でも、現場を踏むことが大切だと思っていたんです。
それを否定するわけではありませんが、今は、アルバイトをしたり、友達と遊んだりするような生活そのものの方が大切だと思っています。芝居漬けの生活より、芝居をあまり意識していないときの方が勉強になることもあります。
あと、圧倒的にコミュニケーションは常に意識しています。どう考えても台詞みたいなことを普通に話せる人を見ると、「すごいな」と思いますし、「絶対に盗んでやろう」と思わされます(笑)。
そういうことが、芝居の幅にもつながると感じています。自分に足りないのは、コミュニケーションの押し引きですね。そのタイミングが難しくて、気づいたら自分だけ話していることがあります。
もっと相手の間や距離感を意識できれば、もう少し友達が増えるはずです……(笑)。
( Chapter 03 )
サトウは、どこにでもいる普通の人間です。
──『竜宮の誘い』は映画初出演にして初主演作です。サトウを演じることになったとき、最初にどう思いましたか。
戸張:とにかく嬉しかったです。プロットを全部読んだうえで、本当にやってみたい役でした。強い人物ではありますが、怖さよりも「芝居として挑戦したい」という欲の方が強かったです。
実際に撮影に入る前には、たくさんの人がこの作品に関わっていることを実感して、萎縮することもありました。でも、「何もない自分にとって、胸を張れる作品になる」と、どこかで謎の自信があったんです。
そこからは、楽しむことに変わっていきました。
──最初にサトウを読んだとき、「理解できる人物」だと思いましたか。
戸張:最初に本を読んだときは、そこまで自分と遠くないと感じました。強すぎる欲望の部分は、もちろん理解が追いつきません。でも、平凡な日常として切り取ったときには、近い感覚がありました。
僕自身も平凡な日常を過ごしていたので、その延長線上でサトウと戸張を行き来しているような状態でした。
どうしても分からない部分については、山田純監督と相談しながらアイデアを深掘りしていったので、最終的には分からない部分はありませんでした。
──公開時に「サトウは普通の人間です」とコメントされています。戸張さんにとって、その“一般的”とは何でしょうか。
戸張:サトウは、どこにでもいると思っているからそう言いました。丸々サトウのような人間はかなり珍しいと思います。でも、サトウに近い部分を持っている人なら、そこら中にいると思っています。
演じるときも、できるだけリラックスして撮影に臨むことを意識しました。あくまで日常。その程度のこと、です。
──山田純監督とは、サトウについてどのような話をしましたか。
戸張:サトウの「裏設定」みたいな項目をたくさん作って、「サトウはこういう人間」という、ふんわりした情報を共有していました。山田監督が強く表現したい部分については、「なぜそう思うのか」といった質問をたくさんしました。
それと、僕はサトウを山田監督自身だと思っていたので、山田監督のことも観察していました。監督は自身を「部分的にそう」とおっしゃっています(笑)。
最初の台本では、サトウが煙草を吸う場面もありました。その煙草の銘柄について、僕から提案したこともあります。ただ、そのシーン自体が丸々なくなってしまいました(笑)。
( Chapter 04 )
優しい俳優でありたい。
──映画祭や劇場上映を経て、観客の反応を知ってからサトウの見え方は変わりましたか。
戸張:やっぱりサトウは気持ち悪いみたいですね(笑)。もちろん、そう見えることは理解できるんですけど、僕はサトウを格好いいと思っていました。
あと、「サトウが可哀想」という感想もいただいています。僕はそんなに可哀想だとは思わないので、そこは意外でした。自業自得だと思うので(笑)。
──『竜宮の誘い』で映画デビューと初主演を経験しました。いま、「映画俳優として生きていく」ことをどう考えていますか。
戸張:超超超ハッピーエンドの映画に出たいですね。
みーんな幸せになれるような。そして、優しい俳優でありたいと思います。


