映画『ボールド アズ、君。』岡本崇監督インタビュー|音楽が僕を救ったわけじゃない、僕が勝手に救われただけ。

岡本崇監督 Interview

岡本 崇(おかもと たかし)

奈良県出身。学生時代からバンド活動を始め、音楽制作を学ぶ。2000年代後半よりインディーズバンドを中心にMV制作を手がけ、これまで300本以上を制作。その経験をきっかけに映画制作へと活動を広げ、短編作品を多数監督する。2018年の短編映画『ロック未遂』などを経て、2022年に初長編監督作『ディスコーズハイ』を劇場公開。

長編第2作『ボールド アズ、君。』では監督・脚本・撮影・編集・音楽を担当。ミニシアターとライブハウスを舞台に、「勝手に救われよう」をテーマとして、映画と音楽に救われた人々を描いた。同作は国内各地の映画祭で上映・受賞を重ね、2025年3月より全国の劇場で公開された。音楽と映画を自在に行き来しながら、自身の体験やインディーズシーンへの眼差しを作品へと落とし込んでいる。

( Chapter 01 )

一本撮って、終わりのつもりだった。

――岡本崇監督が映画を撮り始めたきっかけは何だったのでしょうか。

岡本崇監督(以下、岡本監督):学生時代からバンドや音楽制作の裏方で活動する傍ら、結構な数のMV制作をさせていただいていました。その中に「未遂ドロップス」というバンドの「laundry」という曲があって、それがすごく印象的だったんです。この曲をモチーフに何か撮ってみたいと思ったのが、映画を撮るきっかけでした。

でも、映画制作の経験も知識も、ツテもコネもない。出演者は知り合いのバンドマンを中心に集めて、それでも人が足りないから自分自身も出演して。当日はガンマイクが故障したり、本当に大変なことだらけでした。

それでも何とか、『ロック未遂』という20分弱の短編映画を完成させました。ただ、ずっとバンドしかやってこなかったので、完成した映画をどうしたらいいのかも分からなかったんです。

たまたまSNSで「福井駅前短編映画祭」が作品を募集しているのを見つけて、とりあえず応募してみた。そこで津田寛治さんからベストアクトレス賞をいただいて、打ち上げでは同じような世代、境遇で映画をつくっていた門田樹くんと出会いました。

一本撮って終わりのつもりだったのに、突然、成果と同志を得てしまった。それで「また撮ってみようかな」と思ってしまったんです。

――子どもの頃から映画は好きだったのでしょうか。

岡本監督:子どもの頃に夢中になって何度も観たのは『酔拳』です。ジャッキーの映画はどれも好きなんですが、特にこの作品には思い入れがあります。

最後の戦いが終わった瞬間、エピローグもなく突然映画が終わる。その衝撃を今でも覚えています。最後の数秒ですべてを語り終えている。だったら、だらだら続ける必要はない。これはビートルズにも通じる美しさだと思っています。必要なものだけがある。余白は与えられるものではない、と。

そして、自分の原点になっている映画はマーク・ライデル監督の『ローズ』です。無茶苦茶で破天荒な人物なのに、圧倒的な歌が彼女を支え、そして苦しめる。ベット・ミドラーが見事に歌い、演じる。僕が音楽映画に傾倒しているのは、この映画の影響がかなり大きいです。

( Chapter 02 )

音楽映画の主人公を、ギタリストにしたかった。

――『ボールド アズ、君。』をつくろうと思った一番最初のきっかけは何だったのでしょう。

岡本監督:前の作品を観てくれた人から「次はどんなものを撮るんですか?」と聞かれたことが、まずひとつのきっかけです。もともと、ライブにフォーカスした映画をつくってみたいという気持ちもありました。

ただ、自分が思い描いているライブシーンを撮るためには300人くらいのお客さんが必要だったんです。まだ実績もあまりない自分に、本当にそんなことができるのか。そこはかなり不安でした。

それでもやろうと思えたのは、歌に後藤まりこさん、ドラムに東京事変の刄田綴色さん、ギターにM1LKY WAYの伊集院香織さん、ベースに僕のバンドメンバーのdaisuke。この人たちと一緒にステージに立てるなら、最高の舞台を用意したいと思ったからです。結果的には、収容限界の400人を超えるお客さんが来てくれて、撮影することができました

もちろん、その日はライブだけじゃなくてストーリー部分も撮らなければいけなかったので、とんでもなくバタバタしていましたけどね。後日、集中力が切れて高熱で寝込みました(笑)。でも、本当に撮ってよかった。この映画は、たくさんの出会いをくれました。

映画を好きだと言ってくれるお客さん、新しい俳優さん、憧れていたミュージシャンから連絡をいただいたこともありました。つくらなかった場合の人生は想像できないけれど、つくったことで人生が好転したとは言い切れます。

――主人公には、岡本監督自身もかなり投影されているのでしょうか。
岡本監督:ほぼ自分だと思います。そこに「こうなりたかった」「こうありたかった」という憧れを乗せています。

いつも全然違う主人公を描いているつもりでも、結局は自分自身の切り売りになっているところはあると思うんですが、この作品には本当に全部を込めました。

でも、主人公を女性にしたのは、そこから少し離れるためでもあります。あまりに自分とリンクしすぎた物語だと、描くときに遠慮が出る気がしたんです。「あくまで他人を描いている」という感覚も必要なんじゃないかと思いました。

それと、音楽映画の主人公って大抵、歌う人じゃないですか。だから僕は、ギタリストを主人公にしたかった。そこには、自分自身の希望や思い入れが詰まっています。

( Chapter 03 )

二回しか撮れない。その瞬間に映画が宿る。

――現場で特に忘れられない出来事はありますか。

岡本監督:津田寛治さんですね。この映画はキャスティングの多くがミュージシャンなので、津田さんと一緒に芝居をしたらどうなるのか、すごく楽しみでした。

実際に撮影が始まると、津田さんの芝居にあてられるように、周りのみんなの芝居がどんどん良くなっていった。
それには本当に驚きました。受けのお芝居が上手いということもあると思います。

でも、それ以上に、ミュージシャンが音楽に命を懸けてきたように、津田さんがお芝居に命を懸けてきた、その熱みたいなものが周囲へ伝播していく感覚がありました。それでいて、周りへの気遣いも忘れない。本当にすごい人です。またぜひ、ご一緒したいです。

――インディーズ映画だからこそ生まれたものもありましたか。

岡本監督:制約があるからこそ生まれたものは、たくさんあると思います。ファミコンのチープさがプレイヤーの想像力を膨らませたように、こちらから全部を提示できないからこそ、観客を信じて任せる。それが思わぬ効果を生むこともある。

『ボールド アズ、君。』の後半にBIGCATというライブハウスが登場するんですが、予算の関係で、その一連の場面を一日で全部撮らなければいけませんでした。

最後の最後、メインバンドのライブシーンになった頃には、かなり時間が押していて。どれだけ頑張っても、二回しか撮れない。つまり、一回がリハーサル。もう一回が本番。

そんな大切な場面を、失敗が許されない状態で撮らされるカメラマンの心境は、とんでもなかったと思います。でも、そこで生まれた鬼気迫るようなカメラワーク、極限の集中力は圧巻でした。切るのが惜しいカットもたくさんあります。いつか、あれも観てもらいたいですね。

( Chapter 04 )

音楽が僕を救ったわけじゃない。

――完成した映画を観たとき、どう感じましたか。

岡本監督:最初に思ったのは、「皆、どう思うかな……」という、恐怖と恐怖の波状攻撃です(笑)。いろいろな人に相談したとはいえ、結局、自分の映画を冷静に観ることなんてできないんですよ。

僕は好きだけど、みんなはどうなの!?という気持ちばっかりです。この作品で一番大切にしたのは、やっぱり「音楽」でした。

劇伴や楽曲という意味だけではなくて、もっと大きな意味で、音楽を雑に扱いたくなかった。そして、関西のインディーズバンドシーンを、ちゃんと映画に刻みたかったんです。僕にとって、そこは居場所のひとつなので。面白かったのは、観客の反応でした。

自分では想定していなかったところで笑ってくれたり、感動してくれたり、泣いてくれたり。「ここにそんな感情があるんだ」と知れたのは、すごく面白かったです。

――最後に、この映画をこれから観る人へ。
岡本監督:もう、どんなふうに観てもらっても大丈夫です!観てもらえるなら、どんな状況でも。でも、できれば大きな音で観てもらえたら嬉しいですね。多少歪んでもいいので、いつもより気持ちボリュームを上げ気味でお願いします。

僕は、人生丸ごと音楽に救われました。でも、音楽が僕を救ったわけじゃありません。僕が勝手に救われただけです。
僕にとっては音楽だったけれど、別になんだっていいと思うんです。映画だっていい。スポーツだっていい。

ただ、毎日に追われて心がささくれていくと、そういう衝動って、どんどん薄れてしまう。そんなときに、この映画を観てもらえたら嬉しいです。ややこしい伏線もないし、ただただ真っ直ぐな一本道を、ご都合的に進んでいく映画です。

だから、まずは適当に観てくれたらいい。僕らの人生って、思った以上にご都合主義で、奇跡の連続ですから。確率なんかでは測りきれないくらいに。ここまでこの文章を読んでいることだって、もしかしたら奇跡かもしれない。

でもまあ、見つけちゃったんだからしょうがない。まだ観ていないなら、観てほしいです。僕のこれまでの人生を、パッケージングしたような映画なので。願わくば好きになってほしい。

でも、嫌いでも、何か感情が動いたなら、それもいい。そんなわけで、映画『ボールド アズ、君。』をどうぞよろしくお願いします。

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