【REVIEW FILE】記憶の海を覗いた目撃者たち|映画人たちが語る『海街奇譚』

追憶と現実。
夢と記憶。
そして、海の底に沈んでいるような、人間の孤独と欲望。
チャン・チー監督が描く『海街奇譚』
国内外の映画評論家、作家、映画祭プログラマーから寄せられた言葉をご紹介します。

森直人(映画評論家)

「追憶の劇だから舞台はほの暗く、センチメンタルであって、リアリスティックではない」──まさに本作はこのセオリーを大胆に膨張させ、追憶と現実と夢が混ざり合う、詩的に脚色された寓話的世界だ。さまざまなアイテムやメタファーが映画空間を漂い、バロック的ともいえる視覚的/感覚的愉楽へと我々を誘っていく。


ヴァレリー・キチン(ロシア新聞「Rossiyskaya Gazeta」)

中国映画界に、新たなミケランジェロ・アントニオーニが現れた。繊細な色彩設計が施された映像、それを包み込むような心地よい音響。チャン・チー監督はまさしく芸術家であり、彼の映画はあまりにも美しい。


J. アンドリュー・シュレッカー(アメリカ人作家/Letterboxd)

美術に散りばめられた海の生命たち、あらゆる姿を露わにする青と海の色彩は、観る者の記憶に強く刻まれる。また研ぎ澄まされたカメラワーク、物悲しさに満ちた照明は、観る者の心を決して飽きさせない。懐中にしまいたくなるほどに小さく繊細な、本作の世界観を本当に愛している。作り手の《形なきもの》への計り知れない想いは、使い古された映画ジャンルに新たな命を吹き込んでいる。


アナスタシア・セドバ(ウクライナ/映画祭プログラマー)

信じられないほど詩的で、美として完成されている映画だ。いつ何時も時空を引き裂くフラッシュバックや、過去から切り抜かれた言葉の断片が、主人公の少年時代の空想、そして現在の妄執と混ざり合う。物語という《線》などでは語り尽くせない構成は、《海で生きるもの》の生に想いを馳せる時を人々に託してくれる。人間の内に沈む暗き欲望と孤独を詩編へと紡ぎ上げる手腕は、ラース・フォン・トリアー、デイヴィッド・リンチのレベルにまで達している。


ルーヴェン・リンナーツ(映画評論家/Asian Movie Pulse)

人間の記憶という海で混濁していく夢と現実を、「物語」という形式で表現するのは至難の業ではあるが、成し遂げるに値する仕事でもある。野心的すぎるとすら感じるチャン・チー監督は、ついに人々を強く惹きつけるテーマと映像美だけでなく、「自分は何者なのか、あるいは何者となってしまったのか」その答えを探す旅路という姿形をした、主人公の記憶の《海》へと観客を誘う映画を作り上げた。

記憶の海へ。

夢なのか。
記憶なのか。
それとも、失われた時間なのか。
追憶と現実が溶け合う、その海の向こうへ。

5人の言葉の先にある『海街奇譚』を、ぜひご覧ください。
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