映画『劇情』中野歩インタビュー|「通行人なんかいない」と私は思っています。

俳優 中野歩 Interview

中野 歩(なかの あゆみ)

1996年、東京都生まれ。株式会社アプレ所属。小学生の頃から芝居を始め、舞台を中心に俳優活動を重ねる。ホリプロ『奇跡の人』、ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』をはじめ、劇団カムパネルラ、チーズtheaterなど数多くの舞台に出演してきた。

映像作品では、映画『ザ・ゲスイドウズ』『ドールハウス』『金子差入店』『インコンプリート・チェアーズ』『枯れ木に銃弾』などに出演。テレビドラマでは『ドクターX』シリーズ、『星屑テレパス』『アンサンブル』などに出演している。2022年からは「渋谷のラジオ『渋谷のシネマ』」でメインMCも務める。2026年、比嘉一志監督『劇情』で主演・井上彩役を演じた。

( Chapter 01 )

「夢」というものが、分からなくなっている私がいる。

──最初に『劇情』の脚本を読んだとき、井上彩という人物をどう感じましたか。

中野歩(以下、中野):最初に台本を読んだときは、「似てる!」と思いました。私も昔から器用貧乏と言われていたので(笑)。

でも、衣装合わせをしたり、監督とお話ししたりする中で、何か根本的な違いを感じるようになりました。私はいつも何かに渇望しているタイプな気がするんです。でも、彩はすごく満たされて生きてきたんだろうな、と。

裕福な家庭に一人っ子として育って、愛されて、目立ちすぎず、落ちこぼれにもならないように上手くやってきたんじゃないかなと思いました。分からないとまでは思わないんですけど、どこか彩を羨ましいという気持ちはあります。

ひとつ、彩について今でも少し分からないのが、「そんなプレッシャーもあるのに、夢を追うって私には分からないな」という台詞です。

「何か夢にトラウマがあるのかな?」って(笑)。本編ではしれっと言うようにしましたが、結構強い言葉だと思いました。何でも器用にこなして、ある程度期待されている日常の方が、よっぽどプレッシャーなんじゃないかな、と。

──彩は「なりたいものがない」ことに悩みます。俳優として活動している中野さんには、どう映りましたか。また、彩の就職活動と、俳優のオーディションが重なる部分はありましたか。

中野:それでいうと、彩と今の私は似ている気がするんです。小学生の頃からお芝居を始めて、18歳で小劇場に出始めて12年。

目の前にあることを必死に頑張って、行ける飲み会や集まりには顔を出して、映画館へ行って、舞台を観て、オーディションへ行って、ワークショップにも通って。そんな生活をしている中で、ドラマや大きな舞台、CMにも出させていただいて、「役者になりたい」という私の夢は、ある意味では叶ってしまったんです。

もちろん、まだまだ上を目指したいし、役者として仕事をしていきたいという気持ちがなくなったわけではありません。でも、「夢」というものが分からなくなっている私が今います。

だから今回、彩を演じるときは、撮影に入ってから思考をストップするというか、頑張ることをある意味やめました(笑)。

「なりたいものがない」という人に、今の私が一番近い気がしたので。個性を問われて言葉に詰まる彩の気持ちも、すごくよく分かります。私は就活をしたことがないので何とも言えませんが、就活もオーディションも、ある意味では「ご縁」だと思っています。

いくら熱があっても駄目なときは駄目だし、「無理だろうな」と思って受けたオーディションに通ることもある。友達から「終わらない就活」って言われたこともあります(笑)。

仕事がなくてオーディションも決まらないと、本当に、「誰か私を選んでくれ!!!」という気持ちになりますね。彩もきっと、「誰かに選ばれたい」「もうこれから解放されたい」と思っていたんじゃないでしょうか。

( Chapter 02 )

「通行人なんかいない」と私は思っています。

──彩は主人公ですが、いわゆる物語を力強く引っ張っていく主人公とは少し違います。「主人公らしくしない」ということは意識しましたか。

中野:私、たぶん根本的に先頭に立ちたくないんですよ(笑)。副委員長とか、サブリーダー的な立場が好きで。自分が先頭に立って引っ張っていくより、陰で支える方が性に合うというか。

「主人公らしくしない」ということ自体は特に意識していなかったんですけど、私のこういうところが、比嘉さんの今回のキャスティングにもつながったのかもしれない、と勝手に思っています。

──劇中には「世の中は、通行人がいないとダメなんだよ」という言葉があります。この言葉を中野さん自身はどう受け取りましたか。

中野:ちょっと違うかもしれないんですけど、電車に乗っているとき、窓の外に見える一つ一つの家やマンションを見て、「それぞれの人がそこに生きていて、それぞれの人生を送っているのだな」と思いを馳せる瞬間があります。

だから私は、「通行人がいないとダメ」というより、「通行人なんかいない」と思っています。でも、「通行人がいないとダメ」という言葉の裏には、きっとその意味も隠れていると思うんです。

だって、その人が思い、考え、行動し、発言しなければ、何も起こらない。いくら社会の歯車になって、周りに流されて生きているつもりの人でも、その人の人生の主人公は、その人しかいない。

彩も、どこかで「主人公にならなきゃ」と思っていたところから、「自分の人生の主役は自分でしかない」ことに気づいた。だからこそ、自分が通行人になることへの恐怖や空回りから抜け出せたのかもしれません。22歳でそこに辿り着いたら、もう最強ですね(笑)。

( Chapter 03 )

自由に表現することを、恐れない。

──長く続けてきた合唱の経験が、彩を演じるうえで影響している部分はありましたか。

中野:声や呼吸という意味では、ないです(笑)。私がいた「こどもの城合唱団」は、普通にイメージする合唱団みたいに「声を揃えて」「口の形を揃えて」ということは言われなかったんです。

自由にその歌を歌うこと。表現すること。思いを伝えること。「みんな違ってみんないい。」その代わり、全力でやりなさいという感じで(笑)。

自由に表現することを恐れない姿勢は、合唱団で学んだ一番大きなことで、今の私のお芝居にもすごくつながっていると思います。

──映画の中で映画制作を手伝う彩を演じています。役の彩と、実際に『劇情』の撮影現場にいる中野歩さんとの境目が曖昧になることはありませんでしたか。

中野:私、実はよくスタッフ役をやるんですよ(笑)。たぶん、実際に裏方として現場に入ることもあったからだと思うんですけど。でも、ある意味では、いつも演じているのかもしれません。

その場に馴染むことは、私の得意なことでもあります。スタッフの私。飲食店でバイトをしている私。アパレル店員の私。先輩の私。末っ子の私。全部たぶん違う私で、「もともとの私はどこへ行ったんだろう」と思うときもあります(笑)。

私は、役と現実の境界線がある意味なくなっていくタイプでもあって、真面目な役をやっていると稽古場でも真面目になるし、テンションの高い役なら日常までテンションが上がります(笑)。

だから、「映画の中で映画を作る人を演じている」という感覚より、彩のように何でもそつなくこなす子なら、その場所に馴染むように、ある意味では自分自身を演じるんじゃないかなと思っていました。特に不思議な感覚はなかったですね。

──比嘉監督から受けた演出で、印象に残っているものはありますか。

中野:言われたことというより、いまだに謎なのはラップですね(笑)。なんであそこでラップするのか。教えてください、監督!(笑)あのシーンは本当に、ともみ役のあやるちゃん(中野綾琉)に助けられました。

撮影前や撮影中も、比嘉監督にはいろいろ質問したり提案したりした記憶があるんですけど、結構バッサリ、「いや、これはこれで」と切られた記憶があります(笑)。もちろん全然嫌な感じではなくて、すごく説得力がありました。

一番覚えているのは、悪夢を見た後、夜中に冷蔵庫を開ける場面です。「苺なのは何か意図がありますか?」と聞いたら、特にないということだったので、「じゃあチーズでもいいですか?」と聞いて。私は乳製品がすごく好きで、食べると落ち着くので(笑)。

そうしたら当日、苺もチーズも両方用意してくれていたんです。でも結局、私は苺を選びました。冷蔵庫を開けた瞬間、「苺食べたい」って思ったんですよね。なんかちょっと悔しかったです(笑)。

( Chapter 04 )

あのモヤっとしたまま演じた方が、彩は生きる。

──撮影前と撮影後で、彩という人物の見え方は変わりましたか。

中野:彩のことは、最初から嫌いではなかったです。でも「好き!!」という感じとも違って、どこかモヤモヤするところがありました。それは最初に話したように、自分と似たものを感じていたからかもしれません。

撮影から1年半経って、いろいろな方から映画についてコメントをいただく中で、彩への見方は深まった気がします。最初に話した「彩への憧れ」も、いただいたコメントを読んでハッと気づいたことでした。

「ああ、これか! モヤモヤしていたのは! 決定的な彼女と私の違いは!」「言葉にしてくれてありがとうございます、皆様!」って(笑)。

でも、たぶん今、客観的に分かってきた彩を演じるより、あのモヤっとした何かを持ったまま演じた、あのときの方が彩は生きる気がします。

普段、人ってそんなに自分のことや、自分の感情のことばかり考えていないんじゃないかな。私だって、ぼやっとしているときは何も考えていません(笑)。彩には、どこかみんなの日常にいるような子であってほしい。公開を控えた今は、「これで良かった」と思いたいです(笑)。結果として、彩のことを愛おしく感じている自分がいます。

──いま中野さんが井上彩に、一言だけ声をかけるとしたら。

中野:私が彩にかけられる言葉、あるかしら……。彩の方が、私より何倍も強いです。

仲間もいる。信頼できる両親もいる。メンタルも強め(笑)。だから、わざわざ私から声をかける必要はないのかもしれません。

でも、ひとつだけ言うなら、「あなたを必要としてくれる人は、ちゃんといるよ」ですかね。

落ち続けていると、「私は誰からも必要とされていないんじゃないか」と思ってしまうかもしれないから。……でも、これは私がかけてほしい言葉なのかもしれない(笑)。

中野歩さん出演の映画『劇情』は、2026年9月19日(土)より《2日間連続満席達成》と共に、10月2日(金)まで拡大公開決定! 大阪はシアターセブンにて10月10日(土)より公開!